中国雲南省の南の端で、ヴェトナムと国境と接して者米谷という場所があります。ここでは、タイ、ヤオ、アールー、ハニ、クーツォン、ジョワン、ミャオ、ハーベイの8つのエスニック・グループと、漢族が暮らしています。それぞれの民族は、海抜およそ500mから1300mの河谷平地から山の斜面にかけて、焼畑、棚田、狩猟採集といった生業を複合的におこなってきました。現在この地域では、政府の政策によって山の斜面地の焼畑は禁止され、棚田や換金作物畑への転換がおこなわれています。そのため従来の複合的な農耕の重要度は低下しつつあるようにみえます。しかし山の斜面地で生産性を高めるには、焼畑、棚田、採集を組み合わせた複合的な土地利用の方法と技術が不可欠であることが明らかになってきました。また山の高度差による生態系の相違は、生産物の差異を生み出し、そのことが河谷平野での定期市による、民族間の交易を盛んにしているだけでなく、交易そのものものが各民族の生業戦略の差異を促進してきたことも明らかになっています。 2003年以来、国立歴史民俗博物館の西谷大、葉山茂、雲南民族大学の和少英、普衛明、刀潔らと協力しながら、彼らの多様な自然利用の姿と、変容の姿を明らかにしつつあります。